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双極II型障害と生きる いつも上を見上げて 

うつ→双極II型障害と闘いながら社会人やってます。時々ズッコケますが何とかやってます。この病気を一人でも多くの人に知ってもらいたいです。

モノアミン仮説は間違いか?

おくすり、治療法

かつて「うつ病の原因」という記事の中でうつ病の原因と考えられているものを挙げてみた。その中で、「モノアミン仮説」なるものを挙げたのだが、ネットを見てみると結構否定的な意見を持たれる方が多い。


www.flahertylog.com

しかしこのモノアミン仮説は現在の抗うつ薬の根本となっている。それが間違っているとなると、ぼくも含め現在抗うつ薬を処方されている方にとっては大きな不安と戸惑いを覚えざるを得ない。
そこで、このモノアミン仮説、うつ病の研究歴史の中で最も古いこの仮説が研究者の間でどのように考えられているのかについて最新の情報を説明したいと思う。
なお、精神科医でもない素人の僕が個人的な意見で記事を書くわけには行かないので、最前線で臨床医療をされている日本人の精神科医二名の意見とアメリカ人の精神科医Dr. Simon Moss氏の論文(以下のリンクを参照)、さらに米国精神衛生研究所(NIMH)の見解ををもとに作成したことを断っておきたい。

The monoamine hypothesis / Dr. Simon Moss - Sicotests

 

最初に - 論理の落とし穴に注意 -

ところで、最初に一つだけ確認しておく。これを間違えるとワイシャツの最初のボタンを掛け違うことになってしまうからだ。


「Aは間違っている。」
という論理があったとする。その反対(逆)は
「Aは正しい(あるいは間違っていない)」ではない。
正しい答は
「Aは必ずしも間違っているとは限らない。」である。

例)「精神科医は間違っている。」の逆は

精神科医は正しい。」ではなく

精神科医は必ずしも間違っているとは限らない。」である。

さらに、精神科医は間違っている。」を証明するためには世界中のすべての精神科医が間違っていることを証明しなければならないが、「精神科医は必ずしも間違っているとは限らない。」を証明するためには正しい精神科医をひとり示せば良い。

では本題に移ろう。

モノアミン仮説はなぜ「仮説」なのか?

それはこの仮説が誕生したきっかけにさかのぼる。1956年に結核の薬イプロニアジド、統合失調症の薬として開発段階にあったイミプラミンが投薬された患者の気分が爽快になるという症状が起き、抗うつ作用を有する事が判明した。その後の研究でイプロニアジドにモノアミン酸化酵素を阻害する作用、イミプラミンにセロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害作用があることが判明した。

それまではうつ病双極性障害含む)や統合失調症に有効な薬物治療はなく、それが約60%の患者に有効であったため、脳内ホルモン(セロトニンノルアドレナリンドーパミン)がストレス等の理由によって脳内で不足するためにうつ症状が発生するのではないか?という仮説が立てられた。これがモノアミン仮説である。
これをもとに三環系抗うつ薬が開発され、四環系抗うつ薬SSRISNRI、NaSSAと時代とともに発達していった。(抗うつ薬については後の記事で述べる予定。)

しかしモノアミン仮説には説明できない現象もあった。それは以下のとおりである。

  1. うつ状態がモノアミンの欠乏で起きるのならなぜ抗うつ薬服用後数日以内に症状の改善が見られないのか?(実際に効果が出始めるのは2~4週間ほどかかる。)
  2. 健常者のモノアミンを実験的に減らしてもうつ症状を発症しないのはなぜか?
  3. また、最近多くなってきた「非定型うつ」の患者に抗うつ薬が効きにくく、治療が長期化するのはなぜか?

ところで仮説を証明するためには実験をおこないその真偽を確認し、さらに第三者による同一の条件下での実験で同じ結果が得られなければなそれは正しいとは言えない。しかし脳内ホルモンの脳内での状態を直接調べることは現時点では不可能である。

これらの疑問点は長い間謎であったが医療技術の進歩があるヒントを与えてくれた。
それが海馬神経損傷説である。

海馬神経損傷説

近年のMRIの発達により、脳の状態を詳しく撮影できるようになった。その結果PTSD心的外傷後ストレス障害)やうつ病の患者の海馬(感情や記憶をつかさどるタラコのような形の組織)の神経組織は健常者に比べ損傷し萎縮していることが判明した。
ストレスを受けると副腎皮質ホルモンであるコルチゾールが生成される。これはストレスに対し身を守るための臨戦態勢を整えるものだが、過剰に、あるいは慢性的に出ると海馬を萎縮させる働きがある。海馬組織は胎児のときに完成し、成人になると修復できないと考えられていたが、生後も再生可能であること、さらにセロトニンノルアドレナリンには海馬神経組織を修復する効果があることが判明した。
つまり、うつ病の原因ではないかと考えられてきたモノアミン仮説は

セロトニンノルアドレナリンは損傷した海馬組織の修復のために働き、それがうつ状態を改善させるのではないか?」
というものに変わりつつある。

つまり上記の疑問点に関してはこれまた仮説ではあるが、

 

  1. うつ状態の改善がモノアミンの欠乏で起きるのならなぜ抗うつ薬服用後数日以内に症状の改善が見られないのか?(実際に効果が出始めるのは2~4週間ほどかかる。)→ モノアミン濃度が増してもそれが海馬神経を修復し、感情の変化が認識されるまでにはタイムラグあるためではないか?
  2. 健常者のモノアミンを実験的に減らしてもうつ症状を発症しないのはなぜか? → 健常者はもともと海馬の損傷がなくモノアミンの濃度を減らしても増やしてもうつ症状は発生しないのではないか?
  3. また、最近多くなってきた「非定型うつ」の患者に抗うつ薬の効きにくく、治療が長期化するのはなぜか? → これについては残念ながらまだ有力な説が見つかっていない。

 

薬物療法以外の治療法である電気けいれん療法、TMSなども海馬組織を修復することがわかっており、また、認知行動療法はものの考え方を変える、という観点からコルチゾールの分泌を抑える効果がある。現在抗うつ薬が効果を示さない場合、これらの治療法を組み合わせて行われるようになっている。

TMSについては下記記事をご参照されたい。

 

www.flahertylog.com

論理のまとめ

ここで今までの説明をまとめたい。

問:モノアミン仮説は間違っているか?

  1. うつ病患者やPTSDの患者の海馬神経は損傷、または萎縮している。
  2. モノアミンは傷ついた海馬の神経を修復する働きがあることが確認されている。
  3. それ故、脳内のモノアミンをある濃度まで増加させると海馬の修復が増進される。
  4. しかしまだ説明のできない現象もある。

上記の1~3は最初に述べた「論理の落とし穴に注意」の証明方法に照らし合わせると明らかに「モノアミン仮説は必ずしも間違っているとは限らない。」という方に軍配を上げている。

以上から、モノアミン仮説は間違っているか?という質問に対しては、

「全てを説明できるわけではないが間違っているとは限らない。今後の研究の結果を待つべきである。」

というのが回答になるであろう。

つまりモノアミン仮説がすべてのことを説明できないからと言って「モノアミン仮説は間違っている。」というのは非常に乱暴かつ飛躍しすぎな論理だと思う。

さらに抗うつ薬を用いた治療については

抗うつ薬の作用にはいくつかの疑問は残るものの、うつ病のの治療に対する有効な選択肢となりうる。」

というのが現時点での回答だろう。ちなみに抗うつ薬の治療による寛解率(最初にあった症状が9割程度なくなり、日常の生活が問題なくおくれるようになること)は60%程度である。

なお、一部のサイトで、「モノアミン仮説はNIMH(米国国立精神衛生研究所)で完全に否定された」、というまことしやかなことが言われている。

ameblo.jp

以下にNIMHのうつ病の治療に対する公式見解を示す。全文は記事の最後に掲載しておいた。

これを読むと、2~3行目にある

Depression is usually treated with medications, psychotherapy, or a combination of the two. If these treatments do not reduce symptoms, electroconvulsive therapy (ECT) and other brain stimulation therapies may be options to explore.

うつ病は通常薬物療法心理療法またはそれらを複数組み合わせる治療が行われます。もしこれらの治療法が症状を軽減しない場合、電気療法や他の脳への刺激療法が治療の選択肢となります。

 というところにあるようにNIMHは決して薬物療法を否定はしていない。

また、この見解の”Medications”(薬物治療)の項に抗うつ薬(antidepressants)を用いた治療についても簡単な説明がなされており、NIMHは抗うつ薬の有効性についても認めている。

Antidepressants are medicines that treat depression. They may help improve the way your brain uses certain chemicals that control mood or stress. You may need to try several different antidepressant medicines before finding the one that improves your symptoms and has manageable side effects. A medication that has helped you or a close family member in the past will often be considered.

 

インターネットの普及により我々は手軽により多くの情報を入手できるようになった。しかしそれらは玉石混交であり、何事も大元まで辿らないと間違った解釈をしてしまういい例だと思う。

米国国立精神衛生研究所の公式見解は以下のリンクにあるので興味がある方は参照してほしい。

www.nimh.nih.gov

 

抗うつ薬について

モノアミン仮説否定論者が挙げる根拠のひとつとして、抗うつ薬(特にSNRI)を投与した際に人によっては不安、希死念慮などの症状が出ることがある、というものがあるが、これはノルアドレナリンがどのような働きをするかを考えると簡単に説明がつく。

ノルアドレナリンは別名「闘争ホルモン」とも言われていて、生物が危機に瀕したさい、つまり「闘争・逃走反応(fight-or-flight reaction)」により瞬時に行動を開始するために用いられる。しかしノルアドレナリンが過剰になるとストレスに敏感になり、いつも緊張している状態になる。それが不安や攻撃性(希死念慮のある人はこれが自分に向かい自傷行為につながることがある。)という、うつ症状ともとれる状態になるのだ。(これはぼくも経験したことがある。)

そのため、特にSNRIを服用する際は最初は少量から開始し、様子を見ながら調整するのが普通である。

最後に

うつ病と闘っている人は毎日が大変な思いと辛さに耐えて懸命に生きている。

うつ病は人生を破壊する病気と言っても過言ではない。その人達にとって、治療の最前線にいない人が安易に治療法の批判をするの患者にとって全く慰めにはならない。むしろ不安を与えるだけだ。そのような人たちは我々うつ病患者にとって、まるで安楽椅子に座って決して火の粉が飛んでこない対岸の火事を眺めながら消防士でもないにも関わらず「あんな火の消し方じゃダメだ。」と言っているだけのようなものだ。そして彼らは残念ながら、患者のそばには決して来ようとはしない。

これはうつ病患者に限らないが、つらい思いや悲しみに暮れている人にとって最も重要なのは、評論するのではなく、その人にともに寄り添い、「共感する」ということだとぼくは思う。

 

(参考)米国国立精神衛生研究所(NIMH)のうつ病治療に対する公式見解

Treatment and Therapies

Depression, even the most severe cases, can be treated. The earlier that treatment can begin, the more effective it is. Depression is usually treated with medications, psychotherapy, or a combination of the two. If these treatments do not reduce symptoms, electroconvulsive therapy (ECT) and other brain stimulation therapies may be options to explore.

Quick Tip: No two people are affected the same way by depression and there is no "one-size-fits-all" for treatment. It may take some trial and error to find the treatment that works best for you.

Medications

Antidepressants are medicines that treat depression. They may help improve the way your brain uses certain chemicals that control mood or stress. You may need to try several different antidepressant medicines before finding the one that improves your symptoms and has manageable side effects. A medication that has helped you or a close family member in the past will often be considered.

Antidepressants take time – usually 2 to 4 weeks – to work, and often, symptoms such as sleep, appetite, and concentration problems improve before mood lifts, so it is important to give medication a chance before reaching a conclusion about its effectiveness. If you begin taking antidepressants, do not stop taking them without the help of a doctor. Sometimes people taking antidepressants feel better and then stop taking the medication on their own, and the depression returns. When you and your doctor have decided it is time to stop the medication, usually after a course of 6 to 12 months, the doctor will help you slowly and safely decrease your dose. Stopping them abruptly can cause withdrawal symptoms.

Please Note: In some cases, children, teenagers, and young adults under 25 may experience an increase in suicidal thoughts or behavior when taking antidepressants, especially in the first few weeks after starting or when the dose is changed. This warning from the U.S. Food and Drug Administration (FDA) also says that patients of all ages taking antidepressants should be watched closely, especially during the first few weeks of treatment.

If you are considering taking an antidepressant and you are pregnant, planning to become pregnant, or breastfeeding, talk to your doctor about any increased health risks to you or your unborn or nursing child.

To find the latest information about antidepressants, talk to your doctor and visit www.fda.gov .

You may have heard about an herbal medicine called St. John's wort. Although it is a top-selling botanical product, the FDA has not approved its use as an over-the-counter or prescription medicine for depression, and there are serious concerns about its safety (it should never be combined with a prescription antidepressant) and effectiveness. Do not use St. John’s wort before talking to your health care provider. Other natural products sold as dietary supplements, including omega-3 fatty acids and S-adenosylmethionine (SAMe), remain under study but have not yet been proven safe and effective for routine use. For more information on herbal and other complementary approaches and current research, please visit the National Center for Complementary and Integrative Health  website.

Psychotherapies

Several types of psychotherapy (also called “talk therapy” or, in a less specific form, counseling) can help people with depression. Examples of evidence-based approaches specific to the treatment of depression include cognitive-behavioral therapy (CBT), interpersonal therapy (IPT), and problem-solving therapy. More information on psychotherapy is available on the NIMH website and in the NIMH publication Depression: What You Need to Know.

Brain Stimulation Therapies

If medications do not reduce the symptoms of depression, electroconvulsive therapy (ECT) may be an option to explore. Based on the latest research:

  • ECT can provide relief for people with severe depression who have not been able to feel better with other treatments.
  • Electroconvulsive therapy can be an effective treatment for depression. In some severe cases where a rapid response is necessary or medications cannot be used safely, ECT can even be a first-line intervention.
  • Once strictly an inpatient procedure, today ECT is often performed on an outpatient basis. The treatment consists of a series of sessions, typically three times a week, for two to four weeks.
  • ECT may cause some side effects, including confusion, disorientation, and memory loss. Usually these side effects are short-term, but sometimes memory problems can linger, especially for the months around the time of the treatment course. Advances in ECT devices and methods have made modern ECT safe and effective for the vast majority of patients. Talk to your doctor and make sure you understand the potential benefits and risks of the treatment before giving your informed consent to undergoing ECT.
  • ECT is not painful, and you cannot feel the electrical impulses. Before ECT begins, a patient is put under brief anesthesia and given a muscle relaxant. Within one hour after the treatment session, which takes only a few minutes, the patient is awake and alert.

Other more recently introduced types of brain stimulation therapies used to treat medicine-resistant depression include repetitive transcranial magnetic stimulation (rTMS) and vagus nerve stimulation (VNS). Other types of brain stimulation treatments are under study. You can learn more about these therapies on the NIMH Brain Stimulation Therapies webpage.

If you think you may have depression, start by making an appointment to see your doctor or health care provider. This could be your primary care practitioner or a health provider who specializes in diagnosing and treating mental health conditions. Visit the NIMH Find Help for Mental Illnesses if you are unsure of where to start.

Beyond Treatment: Things You Can Do

Here are other tips that may help you or a loved one during treatment for depression:

  • Try to be active and exercise.
  • Set realistic goals for yourself.
  • Try to spend time with other people and confide in a trusted friend or relative.
  • Try not to isolate yourself, and let others help you.
  • Expect your mood to improve gradually, not immediately.
  • Postpone important decisions, such as getting married or divorced, or changing jobs until you feel better. Discuss decisions with others who know you well and have a more objective view of your situation.
  • Continue to educate yourself about depression.